トップページ >> 玉乃光対談
~ 堀口大學のこと
~
淺野 :
うちでテレビの撮影があって、堀口さんと里見さんが対談なさったときも、燗酒を飲みながらですね。そのとき、「大仏落慶法要に君は行かなかったのか」というようなことを堀口さんにおっしゃったら、「体調を崩して行けなかった」とおっしゃったり。
いつだったか、夕方店を閉めてから町長さんが小林さんを招ばれたので、鴨焼きをやったことがあるんです。小林さんがすごく喜ばれた。そうしたら次の日、堀口大學さんが、自分はまだ鴨焼きは食ったことがないから是非やってくれとおっしゃって、また鴨焼きをやったことがあります。
堀口大學さんは、近所に住む週刊文春の金子さんが勧めても、「自分は神田の藪に詩の弟子がいるから、そこから蕎麦は送ってもらうからいい」と言ってらしたんですね。それでお嬢さんのすみれ子さんが様子を見にお見えになって、それから亡くなるまでよくおいでいただきました。それで色紙をいただいたんです。
いつだったか、夕方店を閉めてから町長さんが小林さんを招ばれたので、鴨焼きをやったことがあるんです。小林さんがすごく喜ばれた。そうしたら次の日、堀口大學さんが、自分はまだ鴨焼きは食ったことがないから是非やってくれとおっしゃって、また鴨焼きをやったことがあります。
堀口大學さんは、近所に住む週刊文春の金子さんが勧めても、「自分は神田の藪に詩の弟子がいるから、そこから蕎麦は送ってもらうからいい」と言ってらしたんですね。それでお嬢さんのすみれ子さんが様子を見にお見えになって、それから亡くなるまでよくおいでいただきました。それで色紙をいただいたんです。
宇治田 :
いやこれは、ここに来なければ聞けない話だなあ。
淺野 :
これは堀口さんが、「今日は親父におみやげを持ってきた」とおっしゃって。私がすぐ飾ると思ってらしたんですけど、どうもこっぱずかしくてすぐ飾らなかったもので、亡くなるまで残念がっていらっしゃいましたけど。
あるじに
一色の一は
日本一の一
この字の「一色」を、箸の袋にいただいたんです。一色の一は
日本一の一
宇治田 :
ああ、そうですか。
淺野 :
さっきの赤い蕎麦の話の続きですが、ちょっと読んでみますと、
「なんだと、赤い花の蕎麦だと」
鉾先は意外な方向へ進もうとしていた。
下座の人々はお互いの目をのぞき込みながら、この日の不運を一身に背負ってしまいそうな、見るからに人のよさそうな店の主人の運命を思いやった。
その時である。今まで事の一部始終を黙ってみていた堀口大學が、おもむろに小林の方に顔を向けた。
わけしり顔をさしてもらいますが、その事なら僕に、ちょっといわせてくださいよ」
肩を揺するように身を乗り出して、大學は言葉をついだ。
「ペルシャの詩人オマル・ハイヤームの詩の中に、旅にあって宿の窓を開けると、一面赤い蕎麦の花が咲いていたという一節があるんですよ」
それがシルクロードを通り、日本へ伝わる間に改良されて白くなったのではないか、というのが堀口の解説であった。決して雄弁ではないが、少年のようにはにかみの表情を浮かべながらトツトツと話す大學の語り口には、十分な説得力があった。
「何だ俺に物を教えようとでもいうのか」といわんばかりに気色ばんだ表情を露わにしていた小林も、すっかり大學のペースに巻き込まれて、妖刀をきらめかせる気力は失せてしまったようだった。
日本の碩学は、一言も発することなく、憮然とした表情で、しばらくは堀口の話に聞き入っていたが、
「ところで、その宿の屋号は何ていうのだい」
と、いたずらっぽい笑みを浮かべてたずねた。
「いやそこまでは……。失礼しました」
頭に手をやった堀口の仕種に、座は笑いにつつまれた。
鉾先は意外な方向へ進もうとしていた。
下座の人々はお互いの目をのぞき込みながら、この日の不運を一身に背負ってしまいそうな、見るからに人のよさそうな店の主人の運命を思いやった。
その時である。今まで事の一部始終を黙ってみていた堀口大學が、おもむろに小林の方に顔を向けた。
わけしり顔をさしてもらいますが、その事なら僕に、ちょっといわせてくださいよ」
肩を揺するように身を乗り出して、大學は言葉をついだ。
「ペルシャの詩人オマル・ハイヤームの詩の中に、旅にあって宿の窓を開けると、一面赤い蕎麦の花が咲いていたという一節があるんですよ」
それがシルクロードを通り、日本へ伝わる間に改良されて白くなったのではないか、というのが堀口の解説であった。決して雄弁ではないが、少年のようにはにかみの表情を浮かべながらトツトツと話す大學の語り口には、十分な説得力があった。
「何だ俺に物を教えようとでもいうのか」といわんばかりに気色ばんだ表情を露わにしていた小林も、すっかり大學のペースに巻き込まれて、妖刀をきらめかせる気力は失せてしまったようだった。
日本の碩学は、一言も発することなく、憮然とした表情で、しばらくは堀口の話に聞き入っていたが、
「ところで、その宿の屋号は何ていうのだい」
と、いたずらっぽい笑みを浮かべてたずねた。
「いやそこまでは……。失礼しました」
頭に手をやった堀口の仕種に、座は笑いにつつまれた。
宇治田 :
面白いですねえ。
淺野 :
堀口さんが亡くなられて、葉山町の町民葬があったんですね。その帰り
に、中村光夫さんなどもいらっしゃいましたが、皆さんでうちにお寄りになっ
て、みんなお燗で徳利が足りなくなっちゃったんです。
に、中村光夫さんなどもいらっしゃいましたが、皆さんでうちにお寄りになっ
て、みんなお燗で徳利が足りなくなっちゃったんです。
宇治田 :
ははあ。
淺野 :
そのときも小林秀雄さんのペースで、独壇場で喋っていられた。それで
町長に、「今日は田中君、よくやった」って小林秀雄さんがおっしゃったら、「小林さんもほめることを知ってるんですね」なんて言われてましたよ(笑)。
町長に、「今日は田中君、よくやった」って小林秀雄さんがおっしゃったら、「小林さんもほめることを知ってるんですね」なんて言われてましたよ(笑)。
宇治田 :
ハッハッハ。そうですか。
淺野 :
そのとき、「河上(徹太郎)のバカヤロウが」とも、盛んにおっしゃってましたね。

